名古屋地方裁判所 昭和43年(ワ)514号 判決 1969年1月31日
原告
澤田金一
ほか三名
被告
魚住時男
ほか一名
主文
被告らは、各自、原告澤田金一に対し一、三〇〇、七四二円、原告澤田ユキに対し一、三五一、三三七円、および右各金員に対する被告魚住時男においては昭和四三年三月六日から、被告株式会社油伝商店においては昭和四三年二月二八日から、完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。
原告澤田金一および原告澤田ユキのその余の請求、並びに原告澤田辰巳および原告澤田達也の各請求を棄却する。
訴訟費用中、原告澤田辰巳および原告澤田達也と被告らとの間に生じた分は、右原告両名の負担とし、原告澤田金一および原告澤田ユキと被告らとの間に生じた分は、これを四分し、それぞれその一宛を、右原告両名および被告らの各自負担とする。
この判決は主文第一項に限り、仮に執行することができる。
事実
第一、当事者の求める裁判
一、原告ら
被告らは、各自、原告澤田金一に対し三、三四七、五七五円、原告澤田ユキに対し三、〇八四、〇一五円、原告澤田辰巳に対し二〇〇、〇〇〇円、原告澤田達也に対し二〇〇、〇〇〇円および右各金員に対する各被告につき主文掲記の日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。
訴訟費用は被告らの負担とする。
との判決並びに仮執行の宣言。
二、被告ら
請求棄却、訴訟費用原告ら負担の判決。
第二、原告らの主張
一、澤田幸子は、昭和四二年一〇月二八日頃、愛知県江南市大字古知野字高瀬二番地先交差点を自転車に乗つて進行中、被告魚住時男が運転し、被告会社の保有する普通貨物自動車に衝突されて、跳ね飛ばされ死亡した。
二、右事故は被告魚住が交差点を通過するに際し、安全確認義務を怠つたために発生したものであるから、被告魚住は不法行為者として、被告会社は保有者として、本件事故による損害を賠償すべき義務がある。
三、損害
(一) 澤田幸子の蒙つた損害
(イ) 逸失利益
幸子は昭和二四年四月二日生(満一八才)の女子で、事故当時高校三年生であり、高校卒業後は就職の予定であつて、同女の就労可能年数は四四年である。愛知県女子労働者の平均賃金は昭和四二年一一月現在の統計(愛知県統計課統計係調査)によれば、一ケ月二三、〇五七円であるから、同女は就労可能の時期において少くとも右金額を下らない賃金を得られたはずである。そして同女の生活費は一ケ月収入の半額を要するので右金額を控除し、年五分の割合による中間利息をホフマン式計算により控除すると、三、一六八、〇三一円が同女の得べかりし利益である。
(ロ) 慰藉料 一、〇〇〇、〇〇〇円
(二) 相続
原告金一は亡幸子の父、原告ユキは亡幸子の母であり、相続により前記幸子の損害賠償債権の半額二、〇八四、〇一五円宛を取得した。
(三) 原告らの慰藉料
(イ) 原告金一および同ユキ 各一、〇〇〇、〇〇〇円
(ロ) 原告辰巳および達也 各二〇〇、〇〇〇円
(四) 葬式費用 四〇三、五六〇円
右金額の内訳明細は別紙記載のとおりであり、これを原告金一が支出したので、右金額は原告金一の損害として請求する。
(五) 損益相殺
原告金一は、被告会社より葬式費用として一〇〇、〇〇〇円、香典として被告会社より三〇、〇〇〇円、被告魚住より一〇、〇〇〇円、合計一四〇、〇〇〇円を受領したのでこれを差引くと、原告金一は三、三四七、五七五円、原告ユキは三、〇八四、〇一五円、原告辰巳は二〇〇、〇〇〇円、原告達也は二〇〇、〇〇〇円の請求権を有するものである。
四、よつて原告らは、被告らに対し右損害金および右各金員に対する本訴状が各被告に送達された日の翌日である主文掲記の日から完済に至るまで年五分の割合による金員の支払を求める。
五、被告の過失相殺の主張は失当である。幸子は、被告車の約一〇〇メートル先ですでに右折を開始していたもので、本件事故は被告魚住の一方的な過失により発生したものである。
第三、被告らの主張
一、原告主張の日時場所において被告魚住運転貨物自動車と幸子乗用の自転車が衝突し、同女が死亡したこと、右加害自動車を被告会社が保有すること、被告らが原告金一に対し一四〇、〇〇〇円を支払つたことは認め、その余の原告主張事実は全て争う。
二、本件事故発生については幸子にも重大な過失があるから、過失相殺されて然るべきである。
即ち、幸子は直進する被告車の進路前方約三〇メートルのところを、右被告車進行の事実に全く気付かず、右折したもので、その過失は大きい。
第四、証拠〔略〕
理由
一、原告主張の日時、場所で、被告車と沢田幸子乗用自転車との間に交通事故が発生し、幸子が死亡したことは当事者間に争いがない。そして〔証拠略〕によれば、本件事故発生時の状況につき、次の事実が認められる。
(1) 本件事故現場は、南北に走る舗装された幅員九メートル(他に両端に幅員三メートルの歩道がある)と東西に走る幅員八メートルの道路(歩車道の区別なし)との交差点から少し北方によつたところである。
(2) 被告魚住は被告車を運転して、毎時約四〇キロメートルの速度で北進し、本件事故現場附近まで来た時、前方から南に向つて道路右端(東側)を前後に連なつて自転車に乗り進んで来る幸子(前)および高田照子(後)を認めたが、そのまゝ進行していたところ、右幸子の乗つた自転車との距離が約三〇メートルになつたところ、幸子の自転車が西側道路に向つて右折を開始したのを発見し、警音器を吹鳴し、それで右自転車が停止してくれるものと軽信してそのまゝ進行したところ、予期に反して右自転車はなおも道路中央に進んで来るので急いで制動措置を取つたが間に合わず、前記交差点のやゝ北側、南北に走る道路中央線よりやゝ西側で、幸子の自転車と衝突した。
(3) 幸子は自転車に乗り、前記南北に走る道路の東側を、同じく自転車に乗りその約三メートル後を走つていた高田照子と共に、南に向つて進み前記交差点手前まで来たとき、その右側を普通乗用自動車に追越されたが、その直後から右折を開始し、道路中央をやゝ越えたところで、被告車と衝突した。
(4) 以上の事実に基き、本件事故当事者の過失を考えると、先ず被告魚住には、前以て南進して来る幸子らの自転車を発見したのであり、右発見地点附近には東西に走る道路もあるのだから、右被害者らがあるいは右折することがあるかも知れないことを慮り、前以て、すなわち、幸子が被告車に気づきよける処置をとる余裕のある時機に警笛を鳴らして注意を促すとか、或いは速度を落すなどして、衝突することのないよう注意すべきであるのに、右幸子らが進路をゆずつてくれるものと軽信し、前以て前記の措置をとらなかつた点で過失がある。被告魚住が約三〇メートル前で警笛を吹鳴したことは先に認定したとおりではあるが、被告車の進行速度および警笛吹鳴時における幸子と被告車の距離を考えると、右警笛吹鳴は時機を失したものと言うべきで、前記過失の認定に消長を来たすものではない。
一方幸子の過失について見ると、その道路の形態より見て、南北車道は東西道路に比し優先的関係にあると認められるのに、右南北車道から右折し、東西道路に入るに際し、交差点手前から、対進車輛の有無に全く注意を払わず、北進する被告車の直前を横断した点で重大な過失があるといわねばならない。
そして右両者の過失が本件事故の発生に寄与した程度を考えると、幸子のそれは、被告魚住のそれに比しかなり重いというべきであるが、右両者の利用した車輛の種類をも考えると、過失相殺の割合は、ほぼ同等と定めるのが相当である。
二、前記認定によれば、被告魚住は不法行為者として本件事故による損害を賠償すべき義務があり、被告会社が被告車を保有する者であることは当事者間に争いがないから、被告会社は自動車損害賠償保障法第三条の保有者として同じく賠償責任がある。
三、(損害)
(一) 幸子の損害
(1) 得べかりし利益
〔証拠略〕によれば、幸子は、昭和二四年四月一二日生れ、高等学校三年在学中の女子であり、格別に病気などはなかつた。そして、昭和四三年四月卒業とともに勤労を開始する予定であつた。ところで右のような女子労働者は、昭和四四年三月まで年収二〇六、四〇〇円、満二〇才となる昭和四四年四月からは満五五才まで、少くとも毎年二三八、八〇〇円の収入を得るであろうこと(日本統計年鑑昭和四二年版による)およびその間その収入の半額を以て生活し得たであろうことは、当裁判所に顕著な事実であり、右得べかりし利益をホフマン式計算法により年五分の割合による中間利息を控除して算出すると二、四〇五、三四七円となる。(なお原告らは愛知県女子労働者の平均賃金を以て、得べかりし利益算出の根拠とするが、被害者が高校卒業後ただちに右賃金を得るとは考えられず、また結婚、出産等により稼働し得ない期間も存することも予想される点から見ると、右平均賃金を得べかりし利益算出の根拠とするのは相当でない。)
ところで、右損害の発生について、幸子にも過失のあることは先に認定したとおりであり、右事情によれば、右損害中、一、二〇二、六七五円に限つて、被告らに対し賠償を求めうるとすべきである。
(2) 慰藉料 五〇〇、〇〇〇円
これまで認定して来た本件事故の態様、右被害者の年令等諸般の事情を考慮すると、慰藉料としては右金額を以て相当とする。
(3) 相続
弁論の全趣旨によれば、原告金一および同ユキが被害者幸子の父および母であることは明らかで、右原告両名は相続により右幸子の損害賠償債権の二分の一に当る八五一、三三七円宛の債権を取得したこととなる。
(二) 原告らの損害
(1) 葬儀関係費用
〔証拠略〕によれば、原告金一は幸子の葬儀関係費用として、別紙葬儀関係費用明細記載のとおり支出したことが認められるが、右別紙五および六記載の費用は、交通事故による損害というには相当でないから、これを差引くと、一七八、八一〇円が原告金一の本件事故により蒙つた損害というべきである。
そして先に認定したとおり、本件事故発生につき被害者幸子にも過失のあることを考えると、原告金一は右損害中八九、四〇五円に限りその賠償を求めうるとすべきである。
(2) 原告金一および原告ユキの慰藉料
これまで認定して来た本件事故の態様、被害者幸子の年令、同女と右原告両名との身分関係等諸般の事情を考慮すると、右原告両名は慰藉料としてそれぞれ五〇〇、〇〇〇円宛被告らに対し求め得るとするのが相当である。
(3) 原告辰巳および達也の慰藉料
弁論の全趣旨によれば、原告辰巳および達也は被害者幸子と父母を同じくする者で、同女の弟に当ることが認められる。従つて右幸子の死亡につき何らかの精神的影響があろうことは推認しうるが、右事実のみを以て、被害者幸子、父金一、母ユキに認められた慰藉料請求と並んで慰藉料請求をなしうるとはしがたい。
(三) 損益相殺
原告金一が、被告両名から一四〇、〇〇〇円を受領していることは当事者間に争いがないから、前記(一)(4)および(二)(1)(2)の合算額から差引くと、原告金一は被告らに対し一、三〇〇、七四二円を請求しうることとなる。
四、以上の次第で被告らに対し、原告金一は前記金額、原告ユキは一、三五一、三三七円、および右各金員に対する本訴状が被告らに対しそれぞれ送達された日の翌日である主文掲記の日から完済に至るまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求め得べく、右原告両名の請求は右の範囲で理由があるからこれを認容し、右原告両名のその余の請求および原告辰巳および達也の請求は理由がないのでこれを棄却し、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法第八九条、第九二条、第九三条を、仮執行の宣言につき同法第一九六条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 西川正世 渡辺公雄 村田長生)
〔別紙〕 葬儀関係費用明細
一、葬儀費 八三、五〇〇円
葬具店支払 三〇、〇〇〇円
御布施料 四五、〇〇〇円
火葬場使用料 一、〇〇〇円
穏亡心付 一、〇〇〇円
霊枢車運転手心付 一、〇〇〇円
式場費 一、〇〇〇円
休憩所御礼 四、五〇〇円
二、交通通信費 一三、五〇〇円
葉書代 七、〇〇〇円
印刷代 三、〇〇〇円
電話料 五〇〇円
借自動車御礼 三、〇〇〇円
三、供物 四一、九五〇円
やまがし 三三、七五〇円
供花 四、八〇〇円
茶菓子 三、四〇〇円
四、お斎 三五、二六〇円
すし 一、二六〇円
割合 二九、五〇〇円
酒代 四、五〇〇円
五、追善供養費 一〇四、七五〇円
供物 九、〇〇〇円
御馳走料 四〇、〇〇〇円
引物 五五、七五〇円
六、仏壇 一二〇、〇〇〇円
七、雑費 四、六〇〇円
写真 一、六〇〇円
死体引取心付 一、〇〇〇円
家政婦心付 一、〇〇〇円
看護婦心付 一、〇〇〇円